1983年、オーストラリアのロビン・ウォレンとバリー・マーシャルがヒトの胃から、らせん状の菌を培養することに成功し
た。この発見には、Skirrowらが1977年に確立したカンピロバクターの微好気培養技術が基盤となっている。カンピロバク
ターは感染性の下痢の原因となるらせん菌であり、微好気性(低濃度の酸素と、二酸化炭素を必要とする)かつ栄養要求性
の厳しい細菌の一種であるため、特殊な培地と培養法が必要である。マーシャルらはその培養法を応用して、慢性活動性胃
炎の患者の胃内、幽門付近かららせん菌を分離することに成功した。
この成功の影には一つのセレンディピティがあったと伝えられている。カンピロバクター培養法を導入したマーシャルらで
あったが、それでも目的の菌の培養には失敗が続いた。しかし1982年4月のイースターのとき、マーシャルの実験助手が休
暇をとったため、マーシャルは通常は数日で終わらせる培養を、5日間そのまま放ったらかしで続けることにした。そして
休暇が終わったとき、培地上に細菌のコロニーができていることに気づき、これが本菌の発見につながった。後にわかった
ことだが、ヘリコバクター・ピロリは増殖が遅く、培養には長時間を必要とする細菌であった。
光学顕微鏡で観察した形態の類似性と微好気性であることが共通していたため、この菌はカンピロバクターの一種と考えら
れ、Campylobacter pyloridis(campylo-; 湾曲した、カーブした、bacter; 細菌、pylorus;幽門)と命名された。ただし
、この名称はラテン語の文法上誤りであったため、1987年にCampylobacter pyloriに改名された。その後、電子顕微鏡下で
の微小構造の違いや遺伝子の類似性から、1989年にカンピロバクターとは別のグループとして、新たにヘリコバクター属が
設けられ、Helicobacter pylori(helico-; らせん状の)に名称変更された。また、同様の方法でヒト以外にもフェレット
、サル、ネコ、チーターなどの動物の胃からも同様の菌が分離されてヘリコバクター属に分類された。
発見された当時、慢性胃炎や胃潰瘍はもっぱらストレスだけが原因であるという説が主流であったが、マーシャルらは本菌
がこれらの疾患の病原体であるという仮説を提唱した。これらの疾患の慢性化と胃がんの発生が関連することが当時すでに
知られていたため、この仮説は本菌ががんの発生に関与する可能性を示唆するものとしても注目されたが、当初は疑いの目
を持って迎えられた。
そこでマーシャルは培養したヘリコバクター・ピロリを自ら飲むという、自飲実験を行った。その結果、マーシャルは急性
胃炎を発症し、コッホの原則の一つを満たすことが証明された。ただしマーシャルの胃炎はこの後、治療を行うことなく自
然に治癒したため、急性胃炎以外の胃疾患との関連については証明されなかった。一方、彼とは別に、ニュージーランドの
医学研究者、アーサー・モリスもまた同様の自飲実験を行った。その結果、マーシャルと同様に急性胃炎を発症しただけで
なく、モリスの場合は慢性胃炎への進行が認められた。これらの結果から、ヘリコバクター・ピロリが急性および慢性胃炎
の原因になることが証明された。この後、疫学的な研究から、これらの疾患の慢性患者の多くから本菌が分離されることや
、本菌の除菌治療が再発防止に有効であることも明らかになった。
『ウィキペディア(Wikipedia)』引用
日本人に保有者が多いピロリ菌と呼ばれるものです。
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